平成17年度から平成21年度まで、トヨタ生産方式に精通している油井武氏を5S運動推進員として招聘し、改善意識の浸透、並びに改善活動実行のサポートをしていただきました。

5S運動推進員 油井 武さん      5S運動推進員  油井 武 

西尾市5S運動の特徴について                               2007年6月

 西尾市における5S運動の特徴は、一言で言えば問題点の徹底的掘り起こしにあります。市民からのご要望はもとより、職員自身が気づいた大小様々な問題点を、一つ一つとりあげ、みんなで智恵を出し合って、改善していくというものです。出された問題点はその日のうちにご意見板に書き込まれ、全庁的にどこでも、だれでも見えるようになっており、全職員から改善案や意見を集めることができるというシクミです。いわばネット通信でいう掲示板とよく似ています。ブログサイトの掲示板では、たとえば、こんなことが知りたいと、書き込むと、たくさんの答えが 返ってきますが、それと同じで、どんな小さいことでも、なんとなく決まっているようであいまいな事柄も含めて、あらゆる問題点を徹底的に掘り起こします。ただし、他人の中傷や、利己的な主張は歓迎されませんので自主的に排除されています。

 最初は、こんな小さなことを書いたら恥ずかしいとか、こんなことは無理ではないか、等と躊躇していた人たちも、5Sミーティングでご意見板に書かれた内容が発表され、皆で問題点を検討したり、改善案を話し合っているうちに、問題点の掘り起こしの要領がつかめてきたようで、おかげさまで昨年度は1,800余件の問題を発掘することが出来ました。また、それに対する改善策も1,900余件と活発な議論が行われ、実施した改善数も1,000件を超える成果を挙げることが出来ました。しかし、これらは氷山の一角にすぎず引き続き19年度も問題点の更なる発掘に向けて、取り組んでゆきたいと思います。

 問題点の発掘の方法は様々ですが、今年の西尾市方式は、オーソドックスながら、一人ひとりが常に問題意識をもって、自分自身の仕事をより細かく、区分して、定量的に、自分自身が第三者となって、より天の高いところから見つめなおしてみることで、一つ一つの作業・動作までをも問題と捉える、問題発掘を奨励しているところです。そして発掘された問題点は、他人様にご意見を下さい、あるいはお知恵を下さいとの立場から、問題点のみをご意見板に書き込み、けっして自分から先に改善案を書き込まないことを、暗黙の約束事としています。問題提起者は他人のご意見が現れるまで、たとえば自分の改善案があったとしても、しばらく、ジーと 温めることになりますが、ここが、一般の改善提案と違う西尾市方式の特徴で、職員間のコラボレーションによる、シナジー効果をねらっているところです。

 全庁的で共通的な効果の大きな改善テーマについては、各グループから選出された、5Sリーダー研修会の場で議論した後、主管機能と連携して、全庁的スタンダードとして横展開をしています。 

西尾市の5S運動の特徴について              2007年8月

 昔から“問題が何かということが分かれば、「その問題は8割方解決したのも同然」といわれてきました。ところが問題が分かっているようで、実は分かっていないことがよくあります。そんな時は、その問題を抽象的に捉えているか、または、大きな問題を丸ごととらえているからです。

 西尾市方式では、大きな問題を、出来る限り細かく分解して捕らえるところから、はじめます。もちろん自分が引き起こした失敗や不備や事故はそっくりそのまま問題点として取り上げますが、問題を起こした人を頭から叱ってはならない、むしろ“失敗を褒めよ”とまでいっています。なぜかというと西尾市方式では、どんな問題でも隠されることを極端にきらうからです。そして問題点は宝物として取り扱います。なぜなら、問題点の裏に隠れて居る真因をつきとめ、それらを改善してその問題が2度と起きないようにすれば、時間や、経費などの損失がなくなることになり、見方を変えれば儲かったことになるわけです。だから、罪は憎んでも、人は憎まずのたとえの通り、西尾市方式では“失敗した人を褒めろ”とまでいって、それらが隠される体質にしないことを誓うとともに、単なる批判を固く戒めています。

 それから失敗から学ぶという点で、世間で毎日起きている、事故や失敗は同時に自分たちのこととして、わが身に置き換えて考え、問題点として取り上げることとしています。卑近な事故では、近県の小学校で起きた遊具の柱折れ事故や、関西の遊園施設で起きたジェットコースターの車軸折れ事故などです。

 このような事故の原因を分析するとき徹底的に“なぜ×5回”を行い、その真因を追求することを行いますが、簡単には5回まで到達できません。真因に到達しないまま、中途半端で原因をつかんだつもりで、対策をしようとすると、必ずしも再発防止にならないことがあり、再度同じ問題を繰り返すことになります。

 西尾市方式では、真因探しの為に行なう、“なぜ×5回”は次のような一工夫を加えて必ず“なぜ”を5回以上行うこととしています。それは、なぜの前に“すみません”を言いながら“なぜ”の質問を繰り返すということです。すなわち、相手に対する思いやりの心を持ちながら、失敗に学ぶと言う姿勢こそが、私たちを真因へと導いてくれることになるでしょう。

 問題点に対する改善策は直感やヒラメキも大切ですが、“なぜ×5回”の真因追求の過程で導きだされる新たな疑問は、それまで不透明な部分を不透明として照らしてくれることとなり、その不透明な点の新たな調査や、現地・現物での検証を根気よく進めてゆけば、必ず真因へ近づくことが出来るでしょう。また真因の追究で大切なポイントは、発生源の追及と同時に、なぜその問題が発見出来なかったかという、検出原因についても“なぜ5回”で考えてみることが大切です。  

西尾市の5S運動の特徴について(コミュニケーションツールの開発)                    
                                 2008年3月

 西尾市方式は“みんなの知恵で日々進化をしている”と申しましたが、ここではもう少し具体的にお話しましょう。

 一人ひとりが気付いたあらゆる問題点に対して、グループ内のメンバーからいろいろな改善案がだされ、それらの改善案を隔週(必要により毎週)に開かれるグループ内5Sミーティングで検討し、やれるものから即実行し、難しいものは試行したり、更なる検討をくわえたりして、問題解決にチームが一丸となって取り組んでいるところです。これは、市役所のすべての部署で平均的に行なわれている方式ですが、開催頻度は職種や勤務形態によって異なりますが、隔週1回以上としています。中には週3回のところや朝礼後毎日5分の部署もあり、お客様の多寡や繁忙期などによって職場ごとに、知恵を絞って、貴重な時間をやりくりしています。

 この結果平成19年度の問題点の掘り起し件数は平成20年1月末現在までに1,954件で、昨年同期比1.2倍となっています。これは各職員の問題意識の高揚のあらわれであり、大変よい傾向となっています。また掘り起こされた問題点に対する改善案の書き込みは1月末までに2,942件と昨年同期比で1.7倍となっています。これは1つの問題提起に対して1.5件の改善案が寄せられたことになり、べつの見方では、1人の困っている人に対し1.5人の人が助けたことになりそれだけコミュニケーションがよくなったという事ができます。そして1月末までの改善実施件数は1,445件で、昨年同期の実施率と比べると1.6倍になり、それだけ職場力が上がったと評価されます。ところが問題点や改善案が多くなればなるほど“5Sミーティングの限られた時間(約30分間)で検討できる改善案はせいぜい3から5件にとどまり、未検討の問題点や改善案が残ってしまう。“何とかできないか”という各課共通の問題が浮かび上がって来ました。この問題に対して各課が独自の工夫をこらし、各課に合った進め方を模索中ですが、そんな中でも特に効果のある方法が編み出され、19年度成果例発表会で発表されましたので、ここではその新しいツールの概要を紹介します。

 一口で言うと“ご意見板の改良によるコミュニケーションの効率化”ということになります。それは従来のご意見板の問題点と改善案の間にグループメンバーの意志を現すマスを設け、提案された改善案に対し、各人がどう思っているかを○とか×とかの記号で各自の都合のよい時に意思表示をするというものです。ある改善案に対し全員賛成(○)なら即その日からその案は採用し実施することや、×をつけた人は新たな欄に改善対案を書き込むことにより、異なる時間にパソコン上で多面的に議論するというコミュニケーションの場ができました。具体的には、意思表示に使う記号は、◎:是非やろう、○:賛成、 試:テスト的にやってみよう、他:他に良い方法あり、記号?:迷っています、などとなっています。また主な取り決めは1.課内のご意見板は毎日見ること2.問題点や改善点を分かりやすく書くこと3.気が付いたら出来るだけその日中にかきこむこと。4.ほかの人の書き込みに関心を持つこと5.対案があれば書きこむこと6.メンバーはすべての改善案に対し意思表示をすること7.5Sサブリーダーの役が回ってきたら5Sミーティングの準備(検討事項の決定、司会)をする。等となっています。

 上記の効果として、ア:パソコン上での事前のコミュニケーションが出来るため5Sミーティングではいきなり本題に入れるので、ダブった説明など余分な時間を割かなくてもよくなった(30分で五十数件処理したこともたった)イ:検討の必要なものに時間が割ける。ウ:なんとなく曖昧であった問題点も即断即決で処理され、かつ全員に徹底できるようになった。等の大きな効果がでています。

 このように、新しいコミュニケーションツールとしてのご意見板の活用は今や日常的に手放せないものとなっていますが、このツールの魅力についてメンバーに聞いてみると、以前はメンバー同士お互いに忙しいので自分の困っている問題点を他の人に直接話しかけると、邪魔するようで、遠慮が先になってついつい相談もできなかったが、今では気楽に書き込めるし、他の人の書き込みに対しても、意見が書き込めるようになったのでご意見板を開くのがとても楽しい。いわゆる異なる時間帯で双方向コミュニケーションが容易になったことがとても嬉いとのことです。またほかのメンバーは、日常の問題点を簡潔に文章に纏める訓練になってよい。など、とても前向きな発言が聞かれるようになりました。

 以上が5S運動のPDCA(プラン、ドゥー、チェック、アクション)サイクルにおきかえてみると、PとDに当たるものですが、つぎにCとAについてみてみましょう。今までのご意見板の反省点の一つに、ともすると意見や改善案が出しっぱなしで誰が、いつまでに実行するのか、結論はどうなったのか等、不明確なところがありました。例えば全員が賛成したからといっても、管理者である課長の指示がなければ正式には実行できません。したがって課長の指示を表す欄とその指示に従ってやった結果の報告もまたその評価も必要です。この点をそれぞれの課が思い思いの工夫を凝らし、試行錯誤してきましたが、昨年12月に行った成果発表会の場で報告された“5Sサブリーダーだより”なるものを基本的な形としてご意見板に改良を加え、全庁的に展開するはこびとなりました。いづれにしても、改善活動の為に余分な事務量を増やさないということも基本にありますので、常に更なる改善が必要です。

 このように全員参加による改善活動が活性化する仕組み作りは、ほんの少し緒に就いたばかりですが、これがベストというものはなかなか見つからないものです。これがベストだと思った瞬間からすでに退化が始まっているよと、先輩によくいわれましたが、ここにも改善は無限、そして立ち止まることなく永遠に続けなければならないと、自分に言い聞かせているところです。 

自働化とジャストインタイムについて            2008年3月

 トヨタ生産方式の二本の柱である、ニンベンのついた自働化とジャストインタイムについて、市役所のような事務職や技術職にどの様に展開していくか、必ずしもはじめから答えがあったわけではありませんが、トヨタ生産方式でいう『ムダの徹底的追求』とは西尾市方式では『問題点の徹底的掘り起こしから』として5S運動を進めるなかで、完璧とはいかないまでも、ひとつの方向が見出せたように思います。ここでは先ずニンベンのついた自働化について、市役所でどの様に展開しているか、その考え方と実務について説明したいと思います。

 自動化ではなくニンベンのついた自働化とは自動機の不具合を自ら検知し自動的に停止し不良を作らない方式と定義されています。そのおおもとは豊田式自動織機の発明のポイントともなっている、縦糸や横糸の切れたことを自動的に検知して瞬時に機械を止め、その切れたことを直し、不良品を全く作らないという思想に端を発しています。その後、自動車の製造にこの考え方が応用され、かつ発展的に改良され“製造ラインは止まらなければ不良は直らない”“問題は止めて直せ”などの格言をはじめ“一度発生した問題(不良、故障)は二度とおこすな”“問題点は先生だ、問題点に学べ”“問題は止めなければ社長の耳に聞こえない”“職員(作業者)は問題(不良、故障)が発生したら機械、ラインを止める義務がある”“管理職は改善が仕事、問題が発生しなければ管理職はいらない”“課長は仕事の8割を改善に当てよ”などの語録と名言が生まれトヨタ生産方式の思想的背景となって、その後のトヨタグループの発展を支えました。

 一方ジャストインタイムとは、必要なものを、必要なときに、必要なだけと言う条件に、もうひとつ最小限の在庫で対応しなければならないと言う条件を加えてその定義としていますが、その思想的背景は、“在庫は諸悪の根源”“在庫は無駄を隠す”“無駄の中の最も大きな無駄は在庫である”“人は在庫を持っておれば安心だが、安心が慢心となり問題が起きてもラインが止まらない、問題が見過ごされる”“課長は毎日 “かんばん”(在庫) を一枚づつ減らしてゆけ、いずれ必ず何か問題が起きる、その問題を改善せよ”“人が休んだ時など人が少ない時こそ改善のチャンスだ、必ず何かが起きるそれをじっと観察して問題点を明らかにせよ”“ひとが少ないのは問題点ではないトレーニング不足や改善不足が問題だ”“ジャストインタイムとは在庫ゼロとは違う、標準手持ちという最小限の在庫を持たないと標準作業は出来ない、仮に作業ができても標準とは程遠い、待ちというむだが生じる”“ジャストインタイムを実現するには段替え(ダンガエ=仕事の場面を転換し別の仕事に移る)を徹底的に短縮せよ”などの語録によって説明されるように、ジャストインタイムとは在庫を最小限に減らすことで、“むだが見えてくるしくみ”ということができます。在庫というものを、川の流れの水位にたとえると、流れの底に沈んでいる邪魔物(大石)は、水位(在庫)が高ければ容易に見つけることは出来ませんが、水位(在庫)を下げることで、ひと目で邪魔物即ち“むだ”が見えてきます。むだが見えれば“しめたもの”で、ここから改善が始められるというものです。そして大きい石を取り除いたらさらに水位を下げ次々と現れてくるムダを改善してゆきます。従ってジャストインタイムは問題点の見える化と改善を永続的にすすめるための、シクミと言うことができます。

 さて、事務職や技術職においてこの水位とはいったい何でしょうか。またニンベンのついた自働化とはいったいどういうことでしょうか。以下この2本の柱について考えてみましょう。

 2本の柱の一つジャストインタイムを実現するキーワードは在庫低減ですが在庫とは何かいうと、加工中以外の物の状態をいいます。素材から完成品に至る工程は、一般的に加工~停滞~運搬~停滞~加工が繰り返され一歩一歩製品に近づいて行きますが、時には倉庫に一時保管されることもあります。トヨタ生産方式では倉庫に保管中のものだけでなく、コンベアーに乗って運搬途中にあるものまで含め加工中以外のものすべてを在庫として扱います。そして大切なことは、加工中のほかにどうしても必要なもの、(例えば機械の中に加工中1個の部品のほかに、もう1個次の部品があれば、加工待ちがなくなるというような場合、その部品1個を標準手持ちという名前を付けて在庫とは分けて考えますが)それ以外のものはすべて在庫として取り扱います。通常加工1に対し、工程間在庫は百倍、千倍にもなっており、ジャストインタイムに近づくためには、これら在庫を徹底的に小さくすることが求められるわけです。即ち在庫は諸悪の根源という思想が徹底的にたたきこまれない限り、ジャストインタイムなどということは、絵に描いた餅ということです。

 ここから、事務や技術部門における商品とは何かというと、それは情報であり、在庫とは情報の停滞をいうわけです。具体的には書類の山や、決裁版の山そして、報告や連絡や相談の遅れ、指示の遅れ、決断の欠如、資材の山、紙や消耗品の多すぎ、さらに人をハングリーにさせない環境とトレーニングの欠如などです。だから“即断即決の政治”というのが、あるべき方向を示しているわけですが、具体的には徹底的に5Sを実行することです。

 次に事務職や技術職におけるニンベン付いた自働化とは何かというと、異常で止まる仕組み造りから始め、その異常を2度と起こらないように改善することです。そこから転じて、各自が変化点(異常や問題点)をキャッチする仕組みを持ち、変化点(異常や問題点)を解決に向けて衆智をしぼる仕組みを持つことなのです。その為に問題点を見える化し全員がそれらを共有化することが大切で、かつそれらを永続的に改善していくことです。

 さて翻って西尾市方式は、この二本の柱の共通点である、問題点の徹底的掘り起こしから始め、先にも述べた5Sの3点セット(5Sチェックリスト、ご意見板、5Sミーティング)を開発しその活用を中心にした改善活動を展開していますが、お陰さまで他市からも多数の見学をいただき、それなりの評価を頂いています。